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社会保障が維持できるための国の財政再建

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◇特別寄稿◇ 日本国内における製造業拠点の再生(第4回) 社会保障が維持できるための国の財政再建 公益財団法人大田区産業振興協会 副理事長 山田 伸顯  政府は昨年10月1日の閣議で、平成26年(2014)4月の消費税税率を5%から8%に引き上げることを決定した。安倍首相はデフレ脱却に向けた動きが腰折れとなり、景気の低迷に陥るのではないかと逡巡してきた。しかし現在、国債と借入金残高の合計が1,000兆円以上、GDPの2倍を超えた日本国の借金は世界の中で異常な状況であり、このまま放置すれば国債の信認を失いかねないという瀬戸際に立たされている。徐々にではあっても返済の方向付けだけは行う必要に迫られている。そこで、他の先進国より低いと言われている消費税を引き上げざるを得ないと判断したのである。 1 なぜ日本は財政危機に陥ったのか  財政を預かる国と地方の政府は、市場を通じてのサービスが難しい公共財を供給したり、社会保障など国民の所得再配分を行ったりという機能を発揮している。本来、財政はその年の収入(歳入)と支出(歳出)が過不足なく均衡しているのが基本である。  戦後は、戦時体制における赤字国債の増発により、ハイパーインフレーションが引き起こされたことから、しばらく財政均衡が保たれてきた。昭和40年(1965)に収入不足により約2,000億円の特例国債(赤字国債)が発行された後も、財政均衡は維持された。しかし、昭和50年(1975)に大蔵大臣であった大平正芳が、「安易な公債依存は排し、速やかに特例公債に依存しない財政に復帰することが財政運営の要諦である」としつつも、赤字国債発行に踏み切った。ただし、赤字国債は現金償還を本則とし、借換償還は禁止した。つまり、歯止め装置によって発行額を抑制しようとしたのである。  大平は首相になった後も、赤字国債の発行額削減に取り組むとともに、財政健全化に向けて一般消費税という増税を提起するに至る。選挙に対峙するために消費税はあきらめたが、大平後の内閣でも公債依存度を低下させることができた。  ところが、昭和59年(1984)に財政制度審議会が「中期的財政運営に関する諸問題の中間報告」において、「赤字国債償還は借換債の発行という手段によらざるを得ない」という答申を行い、現金償還という歯止め装置を破壊してしまった。それでも、平成2年度には赤字国債依存体制から脱却し(ただし平成2年度は湾岸戦争負担金のため特別国債で調達)、平成3年度から平成5年度まで発行がゼロとなった。  しかし、平成4年度からは減税特別公債が発行され、平成10年度以降の赤字国債発行は急増していく。歯止め装置が機能しなくなったことと利払費が長期金利の低下により減少し、財政負担の切迫感が軽減されたからである。大平時代の危機感は喪失し、国民に不人気な増税を避け、歳出拡大による甘みを享受できる赤字国債への依存度を高めていく。その結果、将来の世代に負担を転嫁することとなった。 2 社会保障費急増の背景  財源不足が拡大したのは、赤字国債発行を前提とする歳入を見込んだため、一部には不要不急の歳出予算を組んだことも考えられるが、主たる原因は社会保障給付の増大である(図1)。 国民は税以外に社会保険料を負担している。その保険料収入は平成10年度に55兆円に達して以降ほとんど伸びずに、ほぼ横ばいで推移している。 図1 社会保障給付費と社会保険料収入の推移  一方で社会保障給付費は直線状に伸び上がり、昭和50年度には11.8兆円に止まっていたのが、平成24年度には109.5兆円に急増した。平成24年度の保険料収入が60.6兆円のため、不足額48.9兆円については資産収入や地方財政負担も充てられるが、主たる拠出は国の財政負担であり、29.4兆円が充当された。当然税だけで対応することはできず、年々増加する給付を賄うため、特例公債が36兆円に達し、4条公債という建設国債と合わせて47.5兆円を発行した。平成24年度の一般会計歳出が97.1兆円であったので、48.9%の国債依存度となった。昭和50年度には25.4%に過ぎなかったことと比較すると隔世の感がある。  このように年金、医療、介護・福祉といった社会保障の給付が拡大する背景には、日本の人口構成の大きな変化がある。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」では、平成22年(2010)の合計特殊出生率が1.39という前提(中位推計)での試算が出されている。2010年の総人口1億2806万人が2050年には9,708万人、2060年には8,674万人になるとされ、50年間で4,132万人の減少が見込まれる。  さらに高齢化が世界最速で進行している。内閣府が発表した平成25年版高齢社会白書によると、平成24年(2012)10月1日時点の65歳以上の総人口に占める割合(高齢化率)は、24.1%となり前年の人口推計より高まった。「日本の将来推計人口」では、65歳以上の人口の割合は、2060年では39.9%となると予測されている。15歳から64歳までの生産年齢人口4,418万人で65歳以上人口3,464万人を支える構成となる。老年人口と年少人口を合わせた従属人口4,255万人を支えるには、ほぼ1人で1人を扶養しなければならなくなる。中でも後期高齢者である75歳以上の人口は平成22年(2010)時点より929万人増加し2,336万人となり、構成比は2010年では11%に過ぎなかったのが、26.9%という過大な存在となる。つまり、人口の急減とともに高齢社会の重荷の増大が日本の宿命となっているのだ。財源を拠出できる生産年齢人口がやせ細り、若年層にとっては自分たちの将来に展望が持てない状況となっている。 3 社会保障・税一体改革  「社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成」を掲げて、民主党政権下で社会保障・税一体改革大綱が閣議決定された。それを受けて、社会保障制度改革推進法が平成24年(2012)8月に施行され、法律に規定された「社会保障制度改革国民会議」が設置された。1年間の審議を経て、平成25年(2013)8月に報告書が提示され、その結論を踏まえて「社会保障制度改革推進法第4条の規定に基づく「法制上の措置」の骨子について」を安倍内閣で閣議決定した。  従来の医療・介護、年金という社会保障の枠を超え、少子化対策を打ち出しているのが今回の特色である。報告書では「子供・子育て支援制度を設けて、恒久財源の確保が決定されたことは、歴史的に大きな一歩である。」と述べている。少子化の原因として、若者が社会的に自立することが難しく、出産・子育ての機会費用が大きいとして、若い世代の希望を実現することが社会の責務と位置づけした。少子化対策は、社会保障の持続可能性(担い手の確保)や経済成長にも資するものであり、すべての世代に夢や希望を与える日本社会の未来への投資と認識し取り組むべきであると記している。骨子でも、子供のための教育・保育給付及び地域子ども・子育て支援事業の実施、保育緊急確保事業の実施、そして養育環境等の整備のために必要な措置を取るとしている。しかし、現役世代の賃金・低所得の問題や雇用政策などには具体的に踏み込んでいない。今後の政策の方向性が問われることになる。  次に医療・介護の課題である。  厚生労働省が昨年11月14日に発表した平成23年度の国民医療費は過去最高の38.6兆円となり、平成25年度には40兆円を突破する見込みである。3年連続で1兆円以上増えているからだ。それでも給付抑制策は国民から強い反発を受けている(日本経済新聞11月15日)。  報告書では、介護に伴う離職の増加を懸念している。医療だけで対処してきた「病院完結型」は限界にきており、住み慣れた地域や自宅での生活ができるような「地域完結型」に変わらざるを得ない。医療の領域を超えた長期的な療養を必要とする高齢社会に転換したのだ。そのため地域包括ケアシステムづくりの推進が必須となってきた。そこで、要支援者に対する介護予防給付を、市町村が地域の実情に応じ、住民主体のボランティアによる取組等を活用してサービス提供できるようにすることを提起した。要介護に至らない介護度の低い対象は、国の制度から外そうという姿勢が見えてくる。市町村からは負担が重く、サービスに地域格差が生じるといった不満が出て、移管は一部にとどまりそうだ。自治体に委ねるにせよ、国全体の方針と財源負担は明確にする必要がある。  また、国民健康保険に係る財政運営の責任を担う主体(保険者)を都道府県とし、医療提供の責任と保険の給付責任も都道府県が担うという提言を行った。それに対して全国知事会は、単に保険者を都道府県に移行するだけでは、国保の構造的な問題は解決せず、単なる赤字の付け替えに過ぎない。国の責任と負担を一方的に転嫁するようなことは容認できないとして、財政基盤の確立と市町村との権限と責任の分担について意見を提示した。  この医療給付費の増大は、高齢者の長寿化に伴い慢性疾患が増大したことと、高度な医療技術の開発により新規の治療を施せるようになったという事態が背景となっている。新規開発された薬剤や医療機器の輸入超過は続き、欧米依存から脱却していないことが要因となっている。その結果高額な医療費となって財政を圧迫している。これを解決するためには、国内で医療産業のイノベーションを推進することが必須である。このイノベーションは安倍内閣における成長戦略の1丁目1番地である。  最後に年金問題であるが、報告書は「年金財政は長期的な財政均衡を図る仕組みとしたことで、対 GDP比での年金給付や保険料負担は一定の水準にとどまることとなった。」と述べている。しかしこれは、2004年改革の年金財政フレームに基づくものであり、10年間の経済変動を再確認する必要がある。また、支給開始年齢の引き上げ提言も見送り、これまで一度も実施されてこなかったマクロ経済スライド(年金の加入者の減少や平均寿命の伸び、さらに経済状況を考慮して支給額を変動させる仕組み)も実施時期を明記していない。これで持続的な制度として成り立つのであろうか。  そこで、登場したのが冒頭に述べた消費税の引上げである。昨年10月1日に閣議決定した「消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について」では、税収増は社会保障の充実・安定化に充てるのみならず、デフレ脱却と経済再生に向けた取組をさらに強化するため経済パッケージに取り組むとした。しかしそれでは、社会保障の財源確保なのか、財政危機をもたらす赤字国債の解消に向かうのか、それともデフレ克服のための様々な公共事業の拡充なのか、目的の一貫性があいまいである。  今回3%アップし、平成27年(2015)10月から消費税が10%になったとしても、財政上のプライマリーバランス(基礎的財政収支:公債発行などを除いた収入と、過去の債務の元利払いを除いた支出との収支バランス)はいつになったら達成できのだろうか。これが達成されて初めて借金の返済が始まるのである。そのために、社会保障の負担と税を合わせた国民負担率が先進国の中でも非常に低い日本にあっては、消費税の増額は必然的であると考える。ただし、消費税は広範囲に負担を求められる税であるが、所得の再配分機能が弱く、低所得層に厳しい逆進性を有しているため配慮が必要である。また一方で、社会保障費を筆頭に歳出の大幅な抑制がなければ、財政再建は未来永劫に到達できない。 4 財政再建の道筋  税による増収を図るか、社会保険料を上げるか、社会保障給付を下げるかしなければ、現在の社会保障制度は維持できない。人口減と高齢社会が進行する中、どの層の負担を増やせるのか。  日本における女性労働力率はまだ高くない。出産などにより退職し、子育てが終わるとパートなどで再就職するため、 M字カーブを描いているのが女性の年齢階級別労働力率の特徴である。世界的に見て、かつては女性が就労すると出産率が低下すると見なされていたが、2000年以降は女性労働力率の高い国ほど出産率が高まるという統計結果が出ている(図2)。 (出所 内閣府経済総合研究所) 図2合計特殊出生率と女性労働力率  少子化対策に結びつくためには、女性の就業を続けられる環境を整えることが重要になってきたのだ。就労の場は様々であるが、モノづくりの分野に女性が関心を持って就労するようになってきた。中小企業の中には、年齢制限にこだわらない採用や柔軟な就労形態を取り入れている会社も多い。女性の再就職の場として適合していると思われる。  次に高齢者の就労である。65歳で年金受給すると、高齢者は全く就業しないでリタイヤ後の人生を楽しむようになっている。しかし、これが可能なのは、自分がかけた年金拠出額より大きい受給額を得られるからである。65歳で全く就労しなくなるのは実にもったいない。  そこで、若年層に対する教育訓練の担当者として後進の指導に当たるのは、熟練者としての生きがいを感じる仕事になると思われる。技術・技能の伝承という使命を発揮してもらうよう期待したい。さらに、仕事を続けることで担税力を維持することがますます重要となってくる。元気な高齢者は、消費税だけでなく、所得の再配分を可能にする所得税も納付することが可能である。そういう雇用の場を企業が作り出していくべき段階となっている。他にも高齢者の社会参加の仕方としては、ボランティアによる地域貢献も大切である。  一方法人についてであるが、これまでの根幹的な税財源であった法人税については、課税される事業所の比率がわずか30%しかない。70%が非課税法人ということでは企業の存在価値が問われることになる。消費税引上げ後は賃金の上昇が強く期待されているが、所得拡大促進税制により税額控除しようにも、法人税を納税していない企業には給与増額の動機づけにならない。節税対策は必要であろうが、税により社会に貢献できる事業所に生まれ変わる経営戦略を打ち出していくことがより重要である。  世界一の寿命を支える日本社会は、互いに支えあう社会保障が確立してこそ成り立つのだ。日本のすべての個人と法人が、これに貢献する社会をつくることが財政再建の根本的な道筋である。 参考文献:「なぜ赤字国債の無制限発行が可能になったのか」中島将隆証券経済研究第81号(2013年3月) 公益社団法人全国工業高等学校長協会 機関誌「工業教育」2014年1月号掲載

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