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Channel: 大田区産業振興協会 -ニュース-
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株式会社 商工中金経済研究所のビジネス情報誌「商工ジャーナル4月号」に記事が掲載されました

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大田区産業のグローバル展開と国内連携 下町ボブスレーをソチ・オリンピックに  安倍総理は先の施政方針演説で「世界一を目指す気概を持った皆さんがいる限り日本はまだまだ成長できると確信している」と述べた。ソチ五輪に向けてボブスレーのそりを共同製作している大田区町工場が首相にアピールしたのだ。氷のコースを最高時速140キロ超の速度で疾走するボブスレーは「氷上のF1」と呼ばれ、その機材の開発はF1同様、国の威信をかけて鎬しのぎを削る。イタリアではフェラーリ、ドイツはBMWという世界的自動車メーカーが手掛け、アメリカではNASAが関わり、イギリスは空軍がバックアップしている。  国産品のない日本で、選手はイタリア製やドイツ製の市販品か中古品を使っていて、日本人の体形にフィットするように改造しようにも限界があった。そこで部品製造技術では定評のある大田区の町工場が相互に協力して、自前のボブスレー本体を作り上げようという機運が高まったのである。  軽金属の技術力を高め、航空機産業に応用しようとする㈱マテリアルが中心となって呼び掛け、28社の大田区町工場と他地域の企業が参集した。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)のカウル(ボディー)製作には滋賀県の専門メーカー、㈱童夢カーボンマジックが当たることとなった。  大田区の企業が受け持ったのはフレームという金属部位の製作である。氷面と接触するランナー(刃)は、東京大学大学院の加藤孝久教授の設計に基づいて製作する予定だが、今のところはドイツからの輸入に頼っている。カウルとランナーを結合するフレームは耐久性や強度を必要とし、フロント部位のステアリングコントロールなどの部品は精度も要する。また、CFRPと金属を融合する技術がきわめて重要だ。  2012年9月18日に開催した発注会議では設計図に向き合い、約150のパーツを分担、11月1日の日本国際工作機械見本市(JIMTOF)開会に間に合うよう、各社がわずか12日間で部品を仕上げた。組立が完成した本体が飾られた国際展示場のガレリアの特設ステージでは、会期中連日トークショーが開催され、大きなPR効果を挙げることができた。なお、各社は製作費無償での参加となった。  12月はいよいよレースにトライアルすることとなった。最初は女子のアスリートが試乗したが、それまでの記録を更新し、本番の全日本選手権でも初陣を飾った。  次に男子のテスト走行も行われ、好感触を得た。溶接個所が破断することなく、高速スピードに耐えることができた。今後は、機材の規格が国際基準に完全に適合しているかを確認し、順調にいけばソチ冬季五輪への出場の可能性が高まってくる。それに向けて大田区のまちぐるみの挑戦が続く。  部品加工業の町工場が集積する大田区であるが、最終製品を創出することには大きな意義がある。アスリートのニーズに応え、高い目標の実現に向けて優れた機材を開発することは、連携による総合的なモノづくり力をアピールすることになる。他地域では製作が困難な高度な部品供給はもちろん重要だが、そこにとどまらず、部品加工業の集積を生かし新たな創造型産業集積へと移行する必要が生じている。今回のボブスレー開発は、パーツメーカー群の殻を打開するチャレンジである。 小企業が補完し合う工業集積の変容  国内産業における独自の集積を誇る大田区製造業は、かつて9000を超えていた工場数が4000を切るほどに減少し、集積の縮小が顕著だ。中でも機械金属工業は、フルセット型と言われ、ほとんどすべての工程を保有していた時期があった。しかし、大型の製造物の加工・組立や量産分野の工場は、地価が高く狭隘な都市部では不利なため、本社機能以外は多くの製造現場を地方へ移転させた。さらに、1990年代後半から海外移転が増加した。次第に地域内では生産工程が完結できなくなってきた。  90年代初頭からの資産バブル崩壊、21世紀に入ってからのITバブル崩壊は、工場経営に大きな影響を与えてきた。とりわけリーマンショック以降は、経営をめぐる環境が激変し、それまでにないダメージとなった。さらに東日本大震災が日本のサプライチェーンを寸断。その後も引き続く円高が国内生産を不利に導き、大手メーカーだけでなく、中堅・中小メーカーも海外シフトを迫られた。海外からの調達が有利となり、国内にとどまる中小企業の納入コストは切り下げが止まらなくなった。  これまで特定企業の下請仕事に明け暮れていた多くの小規模企業は、新しい顧客を開拓しようというマインドが低い。自社の強みを自覚していないため、仕事の新規獲得のため何をアピールしたらよいかを知らない。要求されるままのコストダウンに従って納品するため、ずるずると収益が悪化し続けることを甘受している。従業者規模3人以下の小企業の半数以上は、事業継続の意思を失っている。粘り強い小企業のネットワークで支えられてきた大田区地域の集積維持が危機的状況に陥っている。  従来、小企業は、自社にない技術・技能を他社に補完してもらい、相互連携により受注する「仲間回し」という形態が採られていた。「横請け型」の受注である。小企業が減少する今日では、中規模の工場が複合型の工作機械を導入し、内製化して自社加工の比率を高めるようになった。 区内中小企業のグローバル展開を支援  大田区機械製造業の生産物は、ほとんどが機械・設備や部品という資本財、生産財であるため、海外生産比率が高まるにつれ、国内市場が縮小、サプライヤーである中小企業は、輸出で対応するか、自ら海外生産拠点を設けざるを得なくなった。しかし、自力で海外展開できる企業は限られている。そこで大田区産業振興協会(以下「協会」)は、貿易相談や海外情報提供、さらには海外見本市への共同出展などを行ってきた。  2006年からはタイの工業団地と提携し、大田区の中小企業向け集合工場「オオタ・テクノ・パーク」(OTP)を設置し、海外生産の第一歩を踏み出す足場とした。  タイと日本の経済関係は、きわめて密接である。自動車は90%以上が日本のメーカーによって生産される。日本のサプライヤーも多数進出し、高度な技術が移植されている。タイはGDPの60%以上を輸出に依存している。国内メーカーも技術力を高めているとはいえ、機械工業の基盤を担うサポーティングインダストリーの分野はいまだ脆弱であり、そこがこれから一層高度化する製造業のボトルネックになると懸念されている。そこでタイ側は、工業のすそ野を担ってきた大田区の町工場を団地に呼び込むことが重要であると判断した。OTPはタイの工業団地が用意し、賃貸工場として貸し出す方式となっている。協会は、入居企業の勧誘と現地案内、そしてインフラの状況や投資条件の紹介を行い、タイの投資委員会での税制優遇措置の手続きを支援している。これまでOTPには10社が入居したが、リーマンショック後の一時期を除いては業況は好調で、各社とも生産規模が拡大した。進出第一号の企業は12年に卒業して、同じ団地の用地を取得して移転した。  大田区は、経営全体を維持するため海外生産に踏み切らざるを得ない企業もあると認識している。しかし、国内の基盤を喪失しては、技術開発の拠点を失うこととなり、グローバル競争に勝ち残れないと考えている。日本の強みは、コスト競争力ではなく技術力が決め手だからだ。そこで、本社ないし主要な事業所を区内に持続することを前提として進出を支援することにした。海外市場を確保することで、国内のコア技術に基づく部品輸出を増やし、大田区の産業基盤と高度な技術開発力を持続することが狙いである。 医や農の分野など国内の連携を強化  国内の課題解決にも、大田区の技術力の寄与が期待されている。  第一に医療機器に対する技術供与である。機械類の国際競争力の高さにもかかわらず、日本では従来から医療機器を圧倒的に輸入に依存してきた。特に米国からの輸入が大きく、高額な機器を輸入することで医療費も高騰する。医療機器開発の遅れは、厚生労働省による製造承認や認証のハードルの高さから、国内企業が躊躇するためである。  大田区には、「工匠」として認定された高度な技能者が100名近く存在する。彼らは独自の工具を自ら製作できる技量を保有している。メスやピンセットなど医療器具を使いやすいものにする技術は、優れた技能があって初めて成り立つ。高度な医療機器を開発するには、大田区のような少量生産で一品一品に技を込める職人集団の連携が不可欠である。そこで、医療系大学や医療機関が立地する大田区において、「医工連携支援センター」を設置し、医療現場のニーズと機械産業の技術シーズを結びつける場づくりを行った。内科や外科、整形外科だけでなく、歯学部との連携も進行中だ。課題解決のための技術提案がより活発に行われるよう、今後もコーディネーター機能を発揮する組織的対応の強化を図っていく。  次に農業地域のニーズとの結びつきである。野菜や果樹の栽培作業は、機械化が遅れている。生産者の高齢化が進む中、農作業の軽減は必須だ。2010年に大田区産業振興協会は山陰合同銀行と業務協力を行い、大田区の企業による島根・鳥取地域の農作業軽減の技術提案を行ってきたが、12年には秋田銀行との協力協定を締結し、提携を進めている。農作業の効率化は、村の鍛冶屋に原点を持つ金属加工にとって馴染みのある技術である。農作業者の顔を思い浮かべながら機械を製作することは、目的の不明な部品を加工することと比べて、大変やりがいのある仕事である。  大田区企業は、ボブスレーの製作という加工技術を統合する経験をすることで、エンドユーザーに対し総合的プロジェクトを提起するスタンスを身につけることだろう。中小企業が創造的モノづくりをブランド化できれば、新しい「知」の集積を生み出すことも展望できる。 株式会社 商工中金経済研究所 「商工ジャーナル4月号」 特集「変わる産業集積のいま②」より参考URL:http://www.shokoken.co.jp/publication/shoko-journal/ お問合せ先 公益財団法人 大田区産業振興協会 事業グループ 広報チーム 〒144-0035東京都大田区南蒲田1丁目20-20 大田区産業プラザ2F TEL 03(3733)6476 FAX 03(3733)6459 受付時間:月~金曜日(休祝日・年末年始を除く) 8:30~17:15

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