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アベノミクスと成長戦略 ~ 今後の展開、大田区の事業と合わせて ~

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アベノミクスと成長戦略 ~ 今後の展開、大田区の事業と合わせて ~ 公益財団法人大田区産業振興協会 副理事長 山田伸顯 1.踊り場に差し掛かったアベノミクス  6月13日に開催された大田区の加工技術展示商談会で、出展した中小企業者に「アベノミクスで仕事は増加したか」を問うたところ、「一部引き合いが増えてきた」という企業が数社あったが、大半は「今はまだ何も変わらない」「状況は悪くなっている」という答えが返ってきた。日本政策金融公庫総合研究所が行った「中小製造業設備投資動向調査(第108回)結果」を見ると、2013年度当初計画では、12年度の実績比でほとんどの業種がマイナスを示している。デフレ脱却と円高調整の期待値とは裏腹に、実体経済における生産拡大にはまだ踏み切れない状況が続いている。  機械工業集積地である大田区において、リーマンショック後最悪の景況感に陥った中小企業は、後遺症から立ち直るどころか、引き続く円高により先の展望を失い多数廃業していった。ピーク時9千を超えていた工場数は4千を下回り、ネットワークの強みを発揮するモノづくりの集積が衰退の危機を迎えている。グローバル化の進行とともに、国内の生産基盤をめぐる環境悪化が中小製造業に重たく伸し掛かっているのだ。  閉塞的経済状況を打開してくれるかもしれないという期待を受けて、安倍内閣が年末に誕生したが、政策実行をしないうちから為替や株が動き始めた。3月末からは日銀が新体制を発足し、4月4日の金融政策決定会合で異次元の量的緩和に踏み切り、本格的なデフレ克服を開始した。そして6月14日「日本再興戦略」が閣議決定され、それに基づき第3の矢である民間投資を喚起する成長戦略が、大胆な金融政策と機動的な財政戦略とともに同時展開することとなった。円安動向と株高の勢いが5月から翳りを見せ始め、アベノミクスが不安視されるようになった昨今である。日本経済が今後成長軌道に乗ることができるか、その成否とそれを左右する方向性について考えてみよう。 2.成長戦略のポイントと問題点  「日本再興戦略」は3つのアクションプラン(日本産業再興プラン、戦略市場創造プラン、国際展開戦略)で構成されているが、重点となっているのは「戦略市場創造プラン」である。その内容には4つのテーマがあり、1国民の「健康寿命」の延伸、2クリーン・経済的なエネルギー需給の実現、3安全・便利で経済的な次世代インフラの構築、4世界を惹きつける地域資源で稼ぐ地域社会の実現が示されている。中でも、国民の「健康寿命」の延伸では、予防サービスや健康管理の充実により、健やかに生活し老いることができ、医療関連産業の活性化により、世界最先端の医療が受けられ、良質な医療・介護へのアクセスにより、早期に社会復帰できるような社会を目指すとしている。  がん、難病・希少疾病、感染症、認知症等の克服では医薬品・医療機器・再生医療製品の開発で世界にも輸出できる体制を目指したいところだが、2011年時点では医療品・医療機器あわせて約2兆円の輸入超過の状態にある。折しも、山中伸哉教授のiPS細胞技術がノーベル賞を受賞したことを契機に、日本が世界最先端の再生医療に取り組む機運が生まれている。そこで、医療分野の研究開発の司令塔機能である「日本版NIT」を創設し、「先進医療ハイウェイ構想」を推進することで先進医療を大幅に拡大するとした。規制・制度改革と革新的な研究開発の推進がもちろん重要で、医療の国際展開を提唱している。  この戦略は、高齢化を積極的に受け止めて対策を掲げていると思われる。その姿勢に沿って、こうした医療関連産業の活性化に対する取り組むことは重要である。  しかし、日本の技術力をもって、医薬品・医療機器を外国に依存するのは、薬事規制の壁が異常に高いことが原因である。欧米に比べ日本の医薬品や医療機器の開発が遅れるのは、承認まで時間と資金を要する薬事法による治験が障壁となっているからである。また、保険と保険外の混合診療についても踏み込んだ論議を提起していない。一般医薬品のインターネット販売だけが、マスコミで目玉として取り上げられるようでは、心もとない成長戦略に受け取られる。  さらに現在の医療ケア体制は、疾病を前提に事後的な治療に集中していることが医療費の増大を招いていること、これに対しての問題認識が不足している。予防と健康管理に関わる事前対策を整備することとともに、公的サービスのあり方をしっかりと位置付けることが不可欠である。  このことは介護サービスについても同様で、医療サービスを終了しても次のリハビリサービスを受ける体制ができていない。医療と介護の乖離が大きく、中間的施設の整備も進んでいない。寝たきり老人の受け入れには熱心だが、自立化させるサービスを施す手間を掛けない特別養護老人ホームも多く見かける。  医療や介護のサービスは、現状認識から課題を析出しないと、超高齢社会における対策を抜本的に提示することができない。次に、クリーン・経済的なエネルギー需給の実現であるが、再生可能エネルギーの徹底活用や高効率火力発電の活用とメタンハイドレード等の海洋資源の商業化、そして発送電分離に向けた電力システム改革の実行を打ち出している。また、省エネ型消費の普及も進めようとしている。しかし、原子力発電については、再興戦略の総論と日本産業再興プランで、原子力規制委員会により規制基準に適合する安全な発電所の再稼働を進めると触れられているだけである。大変なリスクを経験した日本の原発技術は、単に排除されるべきでなくこれからの方向性を問題提示すべきである。  もう一つコメントしたい戦略は、高品質な農林水産物・食品を生み出す農山漁村社会の実現である。TPPに反対する根拠として、農林水産業が衰退し、国土が疲弊することを挙げているが、すでに担い手の高齢化が深刻となり、第一次産業地域の崩壊が始まっている。そこで、企業の農業参入を推進するため、都道府県が農地中間管理機構を整備し、地域内農地を借り受け、大区画化等の基盤整備を行って、法人経営、企業等に貸し付け、農地集積と集約化を図る。これにより耕作放棄の発生を防止、解消して競争力を強化する。農林漁業産業化ファンドを展開し、異業種連携等の促進により6次産業化を推進し、市場規模を現状の1兆円から、2020年に10兆円とするとしている。輸出もその時点で1兆円を目指している。  これからは、国内需要が縮小するコメを中心とした農業生産体制を転換し、他の農産物生産にシフトすることが必要となると考える。さらに優れた味覚のコメは海外需要を開拓するために、輸出戦略を強化することが重要となっている。 3.地域と中小企業による成長戦略の推進  国を挙げて成長戦略を推進するにあたり、重要なのはグローバル展開した大企業でなく、日本のGDPを担う中小企業の国内基盤を強化する視点である。  中小企業の今後の戦略として、日本産業再興プランに「中小企業・小規模事業者の革新」が掲げられている。環境・エネルギー、健康・医療、航空宇宙などの成長分野に中小企業が参入するために、支援機関が一体となって、地域のリソースの活用・結集・ブランド化、中小企業の新陳代謝、国内外フロンティアへの取り組みを促進することを示している。  大田区では、医療機関と地域中小企業とのマッチングの場をつくり、産業振興協会の組織的取り組みとして医工連携支援を推進している。100にも達するテーマで医療機器開発を進めているのだ。市場を開拓するため、医療機器の製造販売資格を持った企業との提携も図っている。国内だけでなく、先進国との技術連携を推進するため、今年ドイツで開催される医療機器・部品展示会への出展を計画したところ、この分野に意欲的な区内企業が5社参加することとなった。  また、農業地域のニーズを受け止め、農作業や食品加工における機械化の推進にも技術供与を図っている。農業従事者の高齢化に対応するために、軽作業化に貢献するべく、大田区の中小企業が取り組んでいる。  さらに昨年から「下町ボブスレーをオリンピックに」を掲げ、町工場が結集して短期間で部品を供給し、競技に耐えられるレベルのボブスレーを製作している。部品製造では定評のある地域であるが、統合的な製品づくりはこれまであまり手掛けてこなかった。現在区民や企業からの寄付を受けるなど、地域ぐるみの運動となっている。また、CFRPと金属との融合技術を経験することにより、航空機部品製作にも参入する企業も現れてきた。  このように、成長戦略を実現するには、地域の自治体・支援機関と中小企業が連携して事業展開を担っていく姿勢が大切である。国の戦略には、具体的なイメージが湧いてこない。このままでは机上の空論に過ぎなくなる。  最後になるが、経済財政運営と改革の基本方針「骨太方針」が、「日本再興戦略」とともに閣議決定された。財政悪化による国の破綻が現実味を帯びている。高齢化の進行で貯蓄率が減少の一途をたどるにつれ、国債の国内消化も危うくなってきた。これまでの何でも財政負担により運営しようとする姿勢は、この際撤廃すべきと考える。総花的な戦略では、結局何をするのか国民の意思が固まらない。一点突破による事業遂行を国としても決断する段階ではないか。 2013年 一般社団法人日本経済協会機関誌『コンパス』 No.2297号より

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